若いミリタリー

 グアムからのユナイテッド帰国便は満席だった。
乗客の半数以上が、米軍新兵らしい。リュックだけが真新しく、私服だから、訓練を終えたばかりか、さらなる訓練に向かうのか。
 私の隣にも二十歳前後の男性が既に座っていた。
どこへ行くのか聞いた。グアム出身だが、日本経由で韓国へ行くと答える。グアムの基地は、今のところ海軍と空軍だけだが、たぶん海兵隊の新兵だろう。
しかし韓国へ行くのなら、韓国の航空機が多数飛来している。
たぶん南北会談の最中に、若いミリタリーが韓国機でソウルの飛行場に到着すれば問題になるだろう。

隣の彼は、離陸するまで携帯の画像を観ていて、途中からは映画に切り替えた。座席のポケットには、アルバムと思しきファイルが挟まっている。
たぶん、たぶんだが南北会談が崩れ、きな臭い状況になれば、新兵が最初に最前線へ送り出される。そしてその新兵は、本国から遠く離れた、辺鄙な離島出身者の部隊と噂されている。
 イラクの時がそうだったようだ。
血の粛清で国を安定させてきた北の指導者は、急にそのDNAを変えることはできない。きっと言葉の一つの解釈違いで、豹変するのは予想できる。トランプは当然その事を考え、次の一手も考慮しているのだろう。
 飛行機の中で出された簡単な朝食も、彼は半分残していた。
こんな時だけでも、もっとましな食事を、ミリタリーにだけにでも提供して欲しかった。
 飛行機が関空に近づくと、彼は窓のシェードを半分ほど開け、外を見ていた。私は見ないでも淡路島だと分かっている。
しかし彼は外を見続ける訳でもなく、シェードを閉めると、映画を観ていた。
 私は彼の心をおもんばかった。人生で一番楽しみたい時期、異国で戦わなければならない事情…。
 飛行機が完全に止まった。みんな立ち上がり騒めく中、
私は「Good luck.」と言った。私の声はかすれていた。
聞こえなかったのか、私は手を差し伸べた。彼も思わず手を差し出し強く握った
 日焼けした黒い顔の日本人が、手を差し出した意味を知ってくれたかどうか、私には分からない。
しかし私は、この若者に、再びビーチで会いたかった。
でも無理だろう。一度世界を知ってしまった若者は、もう小さな島へ戻ることは難しい。
 関空からわが家へ向かう電車の中で、携帯のニュースを見た。
「中国のミサイルが、グアムを射程に実戦配備!!」