フルメタル・ジャケット

この映画を先に観て、私に薦めたのは、当時英会話スクールで習っていたサンディエゴ海軍基地 付近に住む、女性英語教師だった。
35年ほど前だから、私は50歳にまだ届いていない。
今回の陸上自衛隊射撃場で隊員3人が死傷事件、陸自で以前も有ったし、各国の軍隊でも、同じような事が起きているのを、私は認識している。


「フルメタル・ジャケット」
ストーリーは前半と後半に分かれていて、問題は前半部分。

海兵隊に志願して入隊してきたが、体形がデブなので動作もノロく、イジメの対象になる。

特にライフル銃の解体組み立ての練習に齟齬が来て、鬼教官からしつこく注意される。
しかし訓練期間が終わるころには、その動作も完ぺきに熟すようになり、鬼教官も納得。

だが終了の日、男はトイレで鬼教官を射殺、自分も喉にライフルの銃口を向け自殺する。


ここから私の妄想は始まる。
私はスタンリー・キューブリック監督を熱愛する、日本の映画監督。
政治家高官が良く集まる居酒屋で、私が飲んでいると、誰かが愚痴を呟いている。
こんな事件が起きると、自衛隊員の募集にブレーキが掛かる…」
たぶん防衛省の高官だろう。
「だからいずれ、韓国のように徴兵制度は復活しないと、日本の軍隊は立ち行かなる」
ええっと思い盗み見すると、財務省の高官、…と言うより長老
「しかしそんなことを発表すれば、国民は黙っていませんよ」
防衛省はあくまで慎重に見える
「そのために、マイナを推し進めているのだ。赤紙を配っても出てこない奴は、紐付きの銀行口座を凍結すれば、お手上げだろう?」
恐ろしいことを言うのは、財務省長老。
「当然、責任は親族にもおよび、出てこなければ親族の口座も凍結すればいい」
いい加減なことを言ったのは、デジタル庁の高官
彼は私に気が付いたようだ。つまらぬことを訊いてきた。
「監督、おたくは戦争映画も撮っているし、何かアイディアは有りますか?」
仕方がない、私も焼酎三合ほど飲み、カウンターの上には、お代わりのJ&Bのロックが置かれている。
新入隊員の教育は、どの国でも苦労していますよ。良かれと思って指導したことを、逆恨みし逆襲してくるのはたまに聞きますね。それより、兵士は人間よりロボット化が進むでしょう」
「えっ、どんなふうに…スターウォーズみたいに?」
今度は経産省の高官が訊いてきた。
「似ていますが、もっと進んでいます。ロボットは動力に、布のようにフレキシブルなソーラーを着ます。補助動力に燃料電池、胴体に武器が組み込まれ、必要に応じ銃器が出現します。弾薬も胴体の弾倉に収納、必要な充電は、マッサージ器みたいな椅子に座り、短時間で満タン、戦場で損傷した個所は、部品を丸ごと交換します」
「なんかよう分からんけど…」
財務省の長老は呟いている。
「分かりやすく言えば、F1レースで車がピットに入ってきたら、タイヤ交換から、部品の点検、燃料補給をするでしょう、それを全てロボットが熟すのです。さらに付け加えれば、ロボタリーは…」
「ロボタリーてなんですか? 」
「ロボットのミリタリーです、私の造語ですが…ロボットの皮膚になるソーラーは、カメレオンのように、戦場の環境によって変わり、ジャングルなら森林迷彩、砂漠ならデザート迷彩に、センサーは敵と味方を識別するドローン用と、更に敵のレーダーを躱すステルス性能も加えます」
「それなら無敵だ!」
経産省の高官が叫んだ。だいぶ酒が回っているようだ。
「指揮官は1人、ロボタリーの管理官は二人で50個のロボを支配します。同じように、戦車や装甲車も自動運転にして、ロボットに操作させます」
「オール電化と言う訳か」
経産省が知ったかぶりの事を呟く。
コ〇ツやク〇タは、少しラインを変えれば、無人武装重機は、お手の物でしょう」
と私が企業名をボカシて応えると、経産省は俄然眼を輝かせ…
「それはこちらの得意分野だ、お任せください」
財務省長老に取り入っている。
しばらくして居酒屋の店長が、カウンターでうつ伏せの私を起こしたから、この会話が事実だったかどうかは分からない。


英語教師が観ることを薦めたのは、それだけの価値を見つけたのか、私をデートに誘ったのか今となってはどうでもイイが、海軍の町サンディエゴでバーを経営していて、しんどくなり息子に譲ったと言っていた。


今回の陸自死傷事件を考えると、英語教師は純粋に映画を薦めただけだと確信した。